積み木のように重なる人生
10月になると沖縄でも少しずつ秋を感じますね。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。みなさんはどんな秋を楽しみますか? 今日は読書の秋にぴったりの絵本を紹介します。数々の賞を受賞し短編映画化もされた
「つみきのいえ」です。
海の上にある家に、たった独りで住んでいるおじいさん。3年前におばあさんに先立たれ、子どもたちもそれぞれ独立し、遠いところに住んでいます。
おじいさんの日課は、食べていくための魚釣りと、屋根の上で育てている小麦の世話をすること。たまに会話をするのは、一緒にチェスをする近所に住む友達だけでした。
しかも、おじいさんの住んでいる海の町は、水がだんだん上がってきてしまうので、家の上にまた新しい家を作る作業を繰り返さなければなりません。
ある日、おじいさんは家を建てる作業中に、工具を海に落としてしまいました。潜水服を着て潜った海の中には、おじいさんの大切な思い出の家がありました。
下へ下へと潜っていくと、どんどん思い出がよみがえります。3年前におばあさんをみとった家、孫や子どもとカーニバルを過ごした家、猫がいなくなって子どもが悲しんだ家、娘を嫁がせた家、赤ちゃんが生まれた家、おばあさんと暮らし始めた家…。海の下に沈んでいても、その家々には家族の思い出が積み木のように重なっていました。
目には見えない家族の愛
外に見える世界は、一見すると、いつか沈みゆく建て増しされた家の上で、ひとり孤独に生活するおじいさんの日常に感じられるかもしれません。
しかし、海の下には確かに、おじいさんが幸せな思い出を共にした大切な家があります。
その存在が、海の上のおじいさんの生活は孤独ではなく、幸せだと感じさせてくれます。今ある日常の幸せを支えてくれる家には、目には見えない家族の愛がたくさん詰まっていることを実感させてくれます。
最後のページで、新しい家の壁の割れ目に咲いたタンポポを見てほほ笑むおじいさん。綿毛からタンポポが広がっていくように、積み上げられた家は家族の思い出を重ね、それに合わせて幸せも広がっていく。どこまでも高い秋空のイメージと重なります。
「どんな思い出を家や家族と積み重ねていきたいだろうか?」。秋の夜長に思いをはせるのもいいかもしれませんね。
季節が変わると景色に変化を感じるように、気持ちも衣替えして変化を感じたいと思える深い絵本です。